ガス溶接とアーク溶接とは?何が違うか分かりやすく解説します!
製造業

ガス溶接とアーク溶接は融接に分類される接合技術であり、どちらも材料に高熱を与え、接合部を液相状態にする溶接方法です。
高熱の与え方が異なるガス溶接とアーク溶接とでは、どのような違いが起こるのか、必要になる資格や使い分けについても分かりやすく解説します。
目次
- 1 ガス溶接とアーク溶接とは?何が違うか分かりやすく解説します!
- 2 ガス溶接・アーク溶接の違いは?
- 3 ガス溶接・アーク溶接の資格は必要?
- 4 ガス溶接とアーク溶接の使い分けは?
- 4.1 薄物の溶接にはガス溶接を使う
- 4.2 薄物材料は熱容量が小さいため、液相状態まで溶融させるのに、それほど大きな熱量を必要としません。
- 4.3 むしろ、必要以上に大きな熱量を与えると、溶接に必要な部分以外も溶融してしまい、変形や歪みなど不具合の原因になります。
- 4.4 よって、薄物材料には与える熱量が他の溶接方法と比較して小さく、溶接状態を見ながら作業できるガス溶接がベストです。
- 4.5 ガス溶接なら、炎の大きさを調整したり、材料と溶接トーチとの距離を調整したりすることにより、材料の特性に応じた調整が可能になります。
- 4.6 薄物材料を溶接する際には、ガス溶接を選択すると良いでしょう。
- 4.7 厚物の溶接にはアーク溶接を使う
- 5 まとめ
ガス溶接とアーク溶接とは?何が違うか分かりやすく解説します!
溶接作業とは、2つ以上の材料に熱と圧力とを加え、材料間に連続性があるように接合させる一連の作業のことです。
代表的な溶接技術であるガス溶接とアーク溶接は、融接に分類される接合方法であり、材料を液相状態まで溶融させることで接合させます。
材料を液相状態にするためには1,000℃以上に加熱する必要があり、作業には高度な技術力と豊富な経験が必要です。
ガス溶接とは
ガス溶接とは、熱源にガスを燃焼させた炎を用いる接合技術です。
燃料ガスには一般的に可燃性のアセチレンガスを用い、支燃性の酸素ガスと混合し燃焼させることで熱源の炎をつくります。
ガス燃焼による炎は他の熱源と比較し熱量が小さく、材料にあてる範囲を絞りにくい特徴があります。
そのため、火花が飛び散りにくく接合点を観察しながら溶接作業ができる一方、材料が溶融するまでに時間がかかり作業の効率に影響する溶接作業です。
ガス溶接については、こちらの記事でも解説していますので、興味がある方はご一読ください。
アーク溶接とは
アーク溶接とは、熱源に気体の放電現象であるアーク放電を用いる接合技術です。
溶接する材料にマイナス、空間的に離れているアーク溶接機の電極にプラスの電圧をかけ、絶縁破壊により発生するアークから熱を得ます。
アーク放電による電流は、電極の近傍のみに短時間で5,000℃以上の高温をもたらすという特徴があります。
そのため、作業効率が良く生産性を求められる現場に向いている一方、熱が強すぎて薄板に用いる際は注意が必要な溶接作業です。
アーク溶接については、こちらの記事でも解説していますので、興味がある方はご一読ください。
ガス溶接・アーク溶接の違いは?
ガス溶接とアーク溶接とは、材料を液相まで溶融して接合させるメカニズムは同じですが、熱源が異なるため溶接技術と作業内容は大きく違います。
それぞれの溶接の特徴を理解して、接合する材料や接合部に求められる品質により適切な溶接方法を選択することが大切です。
ガス溶接とアーク溶接、それぞれの違いは下表の通りになります。
ガス溶接 | アーク溶接 | |
熱源 | ガス燃焼による炎 | アーク放電による電流 |
温度 | 約3,000℃〜3,500℃ | 約5,000℃〜20,000℃ |
加熱範囲 | 広がりやすい | 局所的 |
設備 | 構造がシンプル | 一式が安価 |
必要資格 | 講習+修了試験 (無資格に罰則規定有り) | 講習 |
危険性 | ガス爆発 | 感電 |
ガス溶接・アーク溶接の資格は必要?
ガス溶接とアーク溶接はともに材料を高温になるまで熱するため、予備知識無しで作業すると危険に巻き込まれる可能性があります。
そのため、溶接作業に従事する前に、知識を習得する学科、関連法令の学習、装置の取り扱いを学ぶ実技からなる技能講習の受講が必須です。
さらに、ガス溶接作業者は、これら技能講習終了後に修了試験を受験し、ガス溶接技能者の資格に合格する必要があります。
それぞれ詳しく紹介します。
ガス溶接に必要な資格
ガス溶接は、労働安全衛生法(第20条第10号)に定められた、可燃性ガスや酸素を用いる危険を伴う作業です。
ガス溶接の作業に従事するためには、「ガス溶接技能講習」を受講した後、修了試験に合格し「ガス溶接作業者」として認定される必要があります。
仮に無資格で作業した場合、法律違反となり、本人には50万円以下の罰金、会社側には6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
ガス溶接は免許が必要な作業であることを、作業者と会社側は十分に認識し、労働安全に努めなければなりません。
「ガス溶接技能講習」(13時間/2日)の内容は次の通りです。
科目 | 学習時間 | |
学科 | ガス溶接等の業務のために使用する設備の構造及び取扱いの方法に関する知識 | 4時間 |
ガス溶接等の業務のために使用する可燃性ガス及び酸素に関する知識 | 3時間 | |
法令 | 関係法令 | 1時間 |
実技 | ガス溶接等の業務のために使用する設備の取扱い | 5時間 |
また、ガス溶接装置を設置導入するには、「ガス溶接作業主任者」の資格所有者が必要です。
「ガス溶接作業主任者」は、厚生労働省所管の免許であり、所定の実務経験後に受験できます。
「ガス溶接作業主任者」試験(3時間/1日)の内容は次の通りです。
試験科目 | 出題数(配点) |
ガス溶接等の業務に関する知識 | 5問(25点) |
関係法令 | 5問(25点) |
アセチレン溶接装置及びガス集合溶接装置に関する知識 | 5問(25点) |
アセチレンその他可燃性ガス、カーバイド及び酸素に関する知識 | 5問(25点) |
アーク溶接に必要な資格
アーク溶接は、ガス溶接とは異なり労働安全衛生法に定められておらず、作業するにあたって、国が取得を義務付けた資格はありません。
ただし、危険を伴う作業であることには変わりないので、「アーク溶接等の業務に係る特別教育」を受講する必要があります。
必要な資格がないので、講習を修了すれば、アーク溶接作業に従事可能です。
「アーク溶接等の業務に係る特別教育」(21時間/3日)の内容は次の通りです。
科目 | 学習時間 | |
学科 | アーク溶接等に関する知識 | 1時間 |
アーク溶接装置に関する基礎知識 | 3時間 | |
アーク溶接等の作業方法に関する基礎知識 | 6時間 | |
法令 | 関係法令 | 1時間 |
実技 | アーク溶接装置の取り扱い及びアーク溶接等の作業の方法 | 10時間 |
ガス溶接とアーク溶接の使い分けは?
ガス溶接とアーク溶接とは、材料が液相になるまで溶かす融接という溶接の仕組みは同じでも、熱の与え方が異なります。
それぞれの特徴に合わせ、最適な溶接方法を選ぶことは、割れなどの不具合を防ぎ、良好な溶接品質を確保するために必要です。
どのような場合にガス溶接を選択すべきか、アーク溶接に適した材料とは、について紹介します。
薄物の溶接にはガス溶接を使う
薄物材料は熱容量が小さいため、液相状態まで溶融させるのに、それほど大きな熱量を必要としません。
むしろ、必要以上に大きな熱量を与えると、溶接に必要な部分以外も溶融してしまい、変形や歪みなど不具合の原因になります。
よって、薄物材料には与える熱量が他の溶接方法と比較して小さく、溶接状態を見ながら作業できるガス溶接がベストです。
ガス溶接なら、炎の大きさを調整したり、材料と溶接トーチとの距離を調整したりすることにより、材料の特性に応じた調整が可能になります。
薄物材料を溶接する際には、ガス溶接を選択すると良いでしょう。
厚物の溶接にはアーク溶接を使う
厚物材料は熱容量が大きく、溶融し液相状態になるまでに大きな熱量を必要とします。
必要な熱量を与えるまでに時間を要すると作業効率や生産性に影響するため、短時間に大きな熱量を発生できる溶接方法を選ぶことが大切です。
アーク溶接であれば、アーク放電により瞬間的に材料を高温にでき、しかも深い溶け込みで溶接が可能です。
さらに、狙った溶接部を集中的に加熱でき、溶接部の周辺温度をそれほど上げないため材料への熱影響を低減できます。
厚物材料を溶接する際には、アーク溶接を選択すると良いでしょう。
まとめ
ガス溶接とアーク溶接とでは発生する熱源が、それぞれガス燃焼による炎とアーク放電による電流となり、材料への熱の与え方が大きく異なります。
溶接したい材料の特性や溶接部に求められる仕上がり品質を十分に見極め、適した溶接方法を選択することが重要です。
また、ガス溶接とアーク溶接は初めて作業する前に技能講習を履修する必要がある作業になります。
正しい知識や技能の修得なしには、危険に至る作業であることを十分に認識することが必要です。